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経営者がChatGPTを活用した
プロダクト開発で知っておくべきこと

OpenAIによってWeb版のChatGPTは2022年11月30日に公開され、たった2ヶ月で1億ユーザを獲得したことは大きな話題となりました。
有名なSNSであるTiktokやInstagramよりも遥かに早いスピードで我々の生活に浸透したにも関わらず、このChatGPTは我々が自社のビジネス製品の一部として利用できるというビジネスチャンスが提供されています。

どのような業界のCEOにおいても、一度はChatGPTを活用して社内業務の効率化ができないか?できるならばどのように浸透させるか?新しいビジネスを始められるか?といった思考に時間を費やしたことがあるはずです。

この資料では、新しいビジネスを始められるか?という問に対してフォーカスし、プロダクトの構想や意思決定に向けて知っておくべき事項を整理し、解説しています。

ここで取り上げるプロダクトとはSaas製品のように他社に販売するものを想定しており、「自社内で活用するためのChatGPTを利用したアプリ開発」は今回のスコープから外れる点はご注意ください。

自然言語処理を行うプロダクト開発に追い風

まず、自然言語とは日本語や英語といった人同士のコミュニケーションで活用する言語であり、Pythonなどのプログラミング言語といった従来における機械との対話で活用されるものではない範囲の言語を示します。

この自然言語を対象とする課題では、従来ではチャットボットや自動要約、機械翻訳、といった処理が存在していました。
しかし、ChatGPTを活用することで自然言語処理は簡単に行えるようになり、誰でも上記のタスクを利用した専用のプロダクト開発をすることができるようになりました。

この影響によって、新規事業としてChatGPTを活用したプロダクトの開発を行い、公開することは技術的な困難が少ない上に、開発期間も多くは要しません。
例えば、自社業界の会話に特化した英会話チャットボットサービス、面接対策チャットボットなどはChatGPTの出現以降、簡単に作成できるようになっています。

参入障壁の低下による競争の激化

一部のプロダクトが高速で作成できるようになったのは喜ばしいですが、誰でも参入できるため激しい競争に晒されます。

特に記事執筆支援ツールは動きが激しく、日本語のサービスにおいては、note, notion, Xaris, Buncho, Catchy, ユーザベース執筆AI, Langsmith Editorといった数々のプロダクトが公開されています。

もちろんプロダクトごとに顧客層は異なるため具体的なサービス内容は異なりますが、リード顧客にとっては見分けが困難という事実は見落としてはいけません。

ChatGPTを活用したプロダクト開発においては競争に晒されやすいことを理解した上で、ビジネスモデルや営業力などの技術以外のカードで対抗する戦略が重要になります。

あなたのライバルは近い未来のOpenAIやMicrosoft

データ分析・機械学習モデル構築系のノーコードツールについてはOpenAIによるChatGPT拡張プロダクトの影響を大きく受けました。
GoogleのAutoMLを代表としたノーコードツールはデータの特性を自動で検知し、指示された種類の予測を行うモデル開発を高速化・簡易化するものであり、従来のPythonを使用したプログラミングとは異なり、ドラッグアンドドロップなどのマウス作業だけで操作を行うことができるツールです。

一方で、OpenAIは2023年7月11日にCode Interpreterを公開しました。
Code InterpreterはWeb版のChatGPTのオプション機能として提供されており、このプラットフォーム上でコードを実行することができます。
この機能により、各種データ分析を行った結果を可視化したり予測モデルの構築などを行うことができます。
従来のノーコードツールと異なる点としてPythonでの指示やマウス操作ではなく、自然言語(我々の場合は日本語)で指示を行い、また考察の結果を自然言語で受け取ることができます。
これによってデータに対するインサイトを見落としなく確認できるようになっただけでなく、分析の細かい調整が簡単に指示ができるようになる便利さが備わっており、簡単なデータセットに対しては統計の知識があまりない人でもデータ分析を始めることができるようになりました。

次はMicrosoftによる変革について見ていきます。
Microsoftは早い段階でOpenAIに出資してきたように、AIの活用については積極的な立場を取っています。

2023年3月1日にAPI版のChatGPT(gpt-3.5-turbo)が公開されました。
ビジネスの潮流に敏感な業者の一部は、”ChatGPTは最新の情報を活用できない”という弱点を即座に見抜き、社内情報をChatGPTと統合するソリューションの提供を開始していました。

一方で、Microsoftからは2023年6月19日に”on your data”と呼称されるサービスがAzureに提供され、誰でもChatGPTと自社データを組み合わせてチャット形式で問い合わせ可能になります。
これにより、社内のIT担当者がAzure上で少し作業を行えば自社情報に特化したChatGPTを構築でき、業者に委託するモチベーションが大幅に低下しました。

このように優位性がない状態ではたった3ヶ月で土俵をひっくり返されてしまうことになりかねず、これまで以上に競争に向けた戦略を練り上げることが重要です。

特にMicrosoftは既存のOffice製品を生成AIと統合していくことを明言しており、これらツール周りで攻めようとしている場合は、想定顧客への深い理解や技術的な優位性がある、営業部隊に自信がある、などの要因が必要になってきます。

このセクションで明示されたように、業界を絞らない広い範囲の課題を解決するプロダクトを作成する場合、ChatGPTのプロバイダーであるOpenAIとMicrosoftが事業のライバルとなりえることについては強く懸念する必要があります。

ChatGPTを活用したプロダクト開発はスタートアップよりも中規模以上の企業に有利

以下に示すいくつかの要因から、ChatGPTを活用したプロダクト開発においては既存ビジネスを持っている企業であるほど有利になる傾向であることが明らかになります。

独自データから生み出される価値

2019年にBERTが流行った時代と同様で、プライベートなデータからプロダクトを構築できることが一つの優位性となります。
例えばあなたが税理士法人の経営者で過去に受けたお問い合わせの内容と専門家による回答のログが残っていれば、税務相談チャットボットの作成が可能です。

事業が長く継続しているほどに、また専門性の高い業界であるほどに価値のあるデータが蓄積されているため、ChatGPTを活用したプロダクト開発において価値の高い製品開発が行えるようになります。

またChatGPTは嘘を生成してしまうHallucinationと呼ばれる問題を生じてしまうことが知られており、専門業界の知識を扱うようなプロダクトにおいては、上記のような専門家の知見データが扱えることは大きなアドバンテージとなります。

アップセル、クロスセルのインパクト

ChatGPTを既存製品に活用することでアップセル(単価の値上げ)やクロスセル(別製品の抱き合わせ販売)が容易になる点も特徴的であり、既存製品をもつ企業の力を後押しします。

セールスフォースでは、同社のCRMソフトやSlackなどのツールにおいて生成AIを活用した新機能の開発を行うために平均して9%ほどの値上げ(アップセル)を行いました。
値上げに関する基礎的かつ重要な知識ですが、原価を固定したまま売上高が向上した場合、計算上では純利益率は大幅に上昇します。
この結果、好調な財務状況であると判断されたため同社の株価は4%向上し、市場からも前向きに捉えられたことが明確です。

また、ドキュメント管理ツールのNotionでは、生成AIを活用することで説明文章の作成や翻訳などの工数を簡略化するNotion AIがオプションで提供(クロスセル)されています。
これまでは本体のNotionのみの販売でしたが、生成AIによってNotion AIをオプション販売できるようになったことで、単純に売上を向上させることができます。
それだけではなく、生成AIと相性がよいドキュメント管理ツールを探し始めたユーザはその本体であるNotionを採用するきっかけとなるように、オプションが本体の導線となりえます。
つまり、生成AIを活用したオプションツールを単一で販売できるだけでなく、本体とオプションツールの双方向のクロスセル戦略を仕掛けることができるため、単純に製品の種類が増えた以上の相乗効果が発揮されることが期待できます。

スタートアップはどう攻めるべきか?

中規模以上の企業の場合は上記で示した強みをそのまま発揮する形でプロダクト化を進めれば良いですが、スタートアップの場合はどのような戦略がどれるのでしょうか?
例えば以下のような方策が該当します。

  1. より大きな事業者との提携
  2. 営業に力を入れる
  3. 業界のニーズ調査として活用

1. より大きな事業者との提携

直接的なアプローチではありますがシンプルに効果を発揮します。
IT開発に強くはないがプライベートなデータ、インサイトが得られるデータを所持している企業にアプローチし、あなたはそのデータを生かしたプロダクトを開発することができます。
このケースの場合、提携先の企業をそのままM&A先の最有力候補として設定してしまうのも良いかもしません。
ただし、仮に提携先から出資を受ける場合、同社の出資比率が大きすぎるとただの下請け業者に成り下がる点だけは注意する必要があります。

2. 営業に力を入れる

目新しい戦略ではありませんが差別化のポイントとして認識しておく必要があります。
これまでに、どのようなビジネスにおいても競合は発生し、切磋琢磨が求められてきました。
同じマーケットである以上、機能として同じものが求められる傾向はあり、このような状態においては営業力が競争力に直結するシーンは無数にあります。
一方で、新規事業の計画としてはスマートな方法ではないため、営業に自信のあるチームがスモールビジネスを考えた場合の一つの選択肢になり得るという位置づけとなります。

3. MVPの作成に活用

ChatGPTを活用したプロダクト単体で直接売上を狙うのではなく、その前段階でのニーズ調査として活用することも有効な戦略となります。

攻める業界が特定している場合、ChatGPTによって解決がしやすい課題を設定し、これを解決するMVP(minimal viable product, 顧客のニーズを満たす最小限のプロダクト)を作ってしまい、その業界において認知を広げます。
そのMVPをベースにコミュニケーションを発展させ、本来的かつ潜在的なニーズを早い段階で掴み、プロダクトの方針を決定していく戦略がとれます。

特にプロダクトマーケットフィットを目指すためにはPDCAサイクルを高速化することは重要です。
本来であればスタートアップ以外の事業者もこのアプローチが理想とされますが、PDCAと社内稟議システムの相性が良くないため実現が困難な企業は少なくありません。

以上のように、既存事業社に比べるとスタートアップでは恩恵はやや少ないですが、積極的にChatGPTを活用したプロダクト開発を行うシーンが発生することを示しました。

特に、技術的な参入障壁が低いため、アイデアに価値はほとんどないことを理解した上で事業計画を構想する必要があります。

経営者に求められる判断

ここまでChatGPTを活用したプロダクト開発について、経営者が知っておくべき項目を取り上げました。
特に参入障壁が低いこと、また中規模以上の企業に有利であるという特性から、「ChatGPTの波に乗り遅れたらから見送る」といった判断はやや合理的ではなく、「自社で準備ができ次第始める」といった経営判断でも十分にリターンを得られる場面は多いです。

現実の様々な事業においては参入タイミングや競合との差別化といったメタな観点を考慮した事業化が求められますが、ChatGPTを活用したプロダクト開発においては、メタな戦略はあまり重要性が高くありません。
自社の既存製品の特性とChatGPTを代表とした生成AIの特徴を理解しどのように相互作用を生み出すのか、そしてなによりも基礎に立ち返り、ユーザにとって魅力的なプロダクトの開発にもっとフォーカスすべきです。